Artist Story 作家が語る作品づくり
金属作家
黄 照津 Kou Shoshin
2018年金沢美術工芸大学大学院博士後期課程を修了後に台湾に戻り、現在は台北にある自宅アトリエで制作を続けている。日本で金属の象嵌技法( metal inlay )を学んだことは私の作品制作にとって一つ大きな展開である。
台湾の大学にいた時から金工を学び始め、主に銀、銅、真鍮を用いて制作していた。学部時代の作品は単色の金属メッキで仕上げていることが多いのに対し、今の作品は色金(合金)を用いた象嵌加飾を施すことにより、多彩で装飾性の強い作品表現となっている。作品により独自の表現を求め、象嵌技法のほか、透かし彫技法や腐食技法など多様多種な装飾技法の融合表現を試みた。そして、このような表現を、器物の制作に取り入れた。
金沢で暮らした経験で、工芸に対する高度な関心を持つ街全体の雰囲気に影響を受け、私は生活の中にある様々な器物と人間との関係について更に興味を持つようになった。人は器物を繰り返し使う行為で、器物に対する愛着が形成される。こうして、無生命の器物と人間との間に感情の繋がりができると考えた。器物の様々なあり方と装飾の美を通して人とものの繋がりを強化することが私の制作の目的となる。
また、「記憶の心象風景」をテーマとして制作を行なっている。心象風景という言葉は心の中に思い描いたり、浮かんだり、刻み込まれている風景を意味する。自作の描写の題材となるものは感動を与えてくれた大自然と身の周りにある物事、そして自身の文化的背景に関わることである。例えば旅先の風景、通学路に咲く花、田舎にある祖父の家。五感を通して生活の中で経験してきたこと。自身にとって素直に美しいと思える対象物。こういったことを自身の記憶中から抽出し、想像を加えて作品の形または加飾模様に転換する。ある意味では現実と想像が混じり合い、交錯し、意識に生じた心象風景−私の中の理想的な時空の再現である。
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製作中の様子
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オーナーからのご紹介
私が初めて黄さんの作品を見た時は、家をモチーフにした作品だった。現在は、金沢で学んだ象嵌を活かし、何気ない日々の暮らしや自然から感じたことを作品にしている。精密な象嵌でつくられ、金属なのにあたたかい作品。.何かなつかしく、あたたかい感じを受けるのもうなづける。
ArtShop月映 オーナー 宮永満祐美