Artist Story 作家が語る作品づくり
金属作家
河野 太郎 Taro Kawano
「森」をテーマに制作しています。制作には、熔けた金属を型に流し込む「鋳金技法」を用いています。私はその中でも「蝋型鋳造(ロストワックス)」(蝋で原型をつくり、耐火物で覆い焼成すると原型のかたちの空隙が生まれ、そこに金属を流し込む技術)を主に扱っています。作品は【蝋原型→型込め→焼成→鋳造→仕上げ→着色】という道のりを経て、完成へと辿り着きます。
作品「陽の輪郭」
どの工程においても、作品が自然と調和した状態(合理性を追求しすぎない状態)であることを常に意識しています。例えば【蝋原型】では、最初に完成形を決め切らずに、かたちを発見することを楽しみながら制作しています。【型込め】では粘土と砂による原始的な鋳型制作法をあえて選択することが多く、【着色】では塗料を用いない錆による色彩であることに重きを置いています。それは、技法を自在に操ろうとすれば残酷なまでに裏切られ、各素材の聲をきくように向き合えば多くの助けを得られること、つまり人と自然の在り方や関係性を如実に感じられることが、この技法のもつ最大の魅力だと考えているからです。自然に意思は存在せず、おのずからある状態がただ浮遊していて、私達はその中で勝手にもがいているだけだと日々教えられているような感覚です。
制作工程[蝋原型]
制作工程[型込め]
制作工程[鋳込み]
作品「森のかたち」
伊勢神宮などに代表される神聖な森(杜)がいくつもある三重県に生まれ育ったためなのか、森と接する時にはいつも何物にも代えがたい安らぎと、どうしようもない恐怖を同時に感じます。単一の感情で森をみることは出来ません。また、鋳金と森の関係性を考えた時、鋳金技法には金属文明の一員として森を駆逐してきた歴史があるにも関わらず、実際の森のもつ多様な動き・色彩・陽に煌めく様が、蝋原型の特性・錆(緑青)・金属光沢と共鳴し訴えかけてきます。相反するこれら正・負両側面の感情が、人や物事に「確かに存在している」という事柄を与えるのだという実感があり、この感覚を忘れたくないから制作を続けているのかも知れません。
私は、私のつくりだす「森」が、思考の結果ではなく過程としてのかたちであることを目指しています。その理由は、無意味だとされていること、考えても仕方のないことを徹底的に思考し、その過程をかたちにすることが作家の仕事だと捉えているからです。樹々が成長し拡がり、時に土へ還り、また生まれるような、絶え間ない営みにも似た作品。それは、美術や工芸といった言葉が誕生するよりも遥か昔に、祈るようにものをつくり出して来た人々と対話しているようでもあります。その祈りは、ひどく非効率な行為かも知れませんが、即効性のある情報が日毎に量を増し投与されているような今だからこそ、物事の存在に触れ確かめられる「森」をつくり続けていきたいです。
オーナーからのご紹介
河野さんとは開業依頼のお付き合いです。私どもに作品を出してくださることを、一番先に返事してくれた作家さんです。
思い出すと、あの時の笑顔は森に日差しが当たっているようなぬくもりを感じました。作品に光が当たっている時と、陰にある時と 見え方が違います。その両方から、何かを受け取ることができるのかもしれません。そこに、エネルギーを感じる人、炎のような風のような、動きを感じる人もいるかもしれません。安定感を感じる人もいるかもしれません。
ぜひ、体感していただければと思います。
ArtShop月映 オーナー 宮永満祐美