Artist Story 作家が語る作品づくり
陶芸作家
片瀬 有美子 Yumiko Katase
私は、19世紀イギリスで生まれた陶芸の技法“mocha ware(モカウェア)”を応用した作品を作っています。
本来は土物の素地に化粧土を掛けた後にモカウェアを施すのですが、私はオリジナルとして素材を磁土に置き換えて制作しています。 成形方法は主に石膏型を使った鋳込み成形です。
石膏型に磁土の泥を流し入れ、肉厚がついた頃に排泥して、間髪を入れずにモカティーという液体で溶いた絵具を筆で落とし、泥に模様を這わせます。泥が乾くと絵具が広がらない為、それまでの約1分間、精神を集中させて模様を施しています。下絵具を3、4種類使うことで透光性のある磁土に水彩画のようなグラデーションが解けるようにして馴染みます。
主にテーマやモチーフにしているものは、花などの植物や蝶です。 白磁に色彩豊かなモカウェアを施すシリーズから始まり、素地の色を黒やグレーにしてモカウェアの模様の部分に上絵の具を象嵌したり、最近では鋳込みではなく磁土の塊をくり抜いて作るjuicyシリーズなどに展開させています。
作品1
作品2
私は長野県安曇野の生まれで、小さい頃から自然に囲まれて育ち、植物や風景の絵を描くことが好きでした。油絵の勉強もして美大に入ったのですが、体験授業で陶芸に魅了されてすぐに陶磁コースに専攻を変えました。器に植物の絵付けをすることも好きだったのですが、独自の技法を見つける為に、美濃焼きの産地にある多治見市陶磁器意匠研究所に入り、モカウェアと出会いました。研究所では量産の技術である鋳込み成形を学んでいた為、磁器という素材でモカウェアを施すことに成功しました。
ですが焼き物をされている方から見れば、私の成形の仕方はタブーなことばかりと言われます。特に鋳込み成形のやり方にかなり無理があり、失敗も多くリスクを伴いながらなんとか形にしています。
でもこれは素材を置き換えた為に制約が生まれ、それを逆手にとって挑んだ結果、新しい表現としてオリジナリティーのある作品になったのだと思っています。
自然の中には美しい色彩を持つ生き物や植物がたくさん存在し、永遠の憧れです。 私はこれからもモカウェアの現象を利用しながらそのような世界を表現した焼き物を作っていきたいと思います。
人は色に対して敏感な生き物だと思います。私の作品は一つとして同じ模様がなく、コントロールしながらも偶然できた色彩や形によって、切なさや安らぎ、喜びなど見る人の心に少しでも与えることができたら幸いです。
オーナーからのご紹介
片瀬さんの作品は、モカウェアを使った高度な技術と仕上がりの美しさに魅了される。土に染料がしみこんでいく模様は、一つひとつの景色が微妙に違う。陶磁の魅力は作家と土との対話を感じることだと思う。このモカウェアで独自な世界を創り上げた片瀬さん。また新しいチャレンジがあると聞いている。これからも進化するに違いない。
ArtShop月映 オーナー 宮永満祐美