Artist Story 作家が語る作品づくり
金属作家
濱口 佳純 Kasumi Hamaguchi
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私は、鋳金技法により「みなも」を制作しています。制作工程は、「原型」、「型込め」、「鋳造」、「仕上げ・着色」を経て作品が完成します。
「みなも」は「原型」の工程で樹脂に風を当て、波模様や波紋を実際に作り出しています。風の当てる具合で、その時々で違った模様が生まれます。 その「原型」を割って取り出せるように外型を造り、隙間に金属を流し込み、鋳物となります。その鋳物の表面を研磨し、着色を行います。
私が「みなも」を制作するきっかけになったのは、生まれ故郷での川や水にあります。出身地の熊本県は、自然豊かで、川で遊んで幼少期をすごしました。その時に、水の流れる音、樹々の間から差し込む太陽の光、その光に反射して煌めく水面をじっと眺めていました。太陽に照らされる水面は次々と表情を変えていき、その煌めきや、何度も変化し同じ形態を見せない水の表情に、かけがえのない唯一性と永遠性を感じています。
2016年に起こった熊本地震で、見慣れた風景が変化したことにより、日々の当たり前としていた物事が、永遠ではないという尊さに改めて気付かされました。「かわらない」当たり前の日常の大切さに気付くことが出来るのは、変化があり、「かわる」物事が起こるからだと感じました。
「水が流れる」こと、「水面に波紋や波が出来る」ことは、「かわらない」現象で、永遠性を感じています。私はここに「かわらないことの美しさ、大切さ」の象徴の意味を持たせたいと考えました。そして、修了制作の「かわらないけしき(2019)」では、これからも水が流れ続いて行く、続いてほしいという願望を抱き、「みなも」を自身の祈る対象にし、「かわらない」ものの碑を制作しました。
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みなも原型-1
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みなも原型-2(樹脂)
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作品「みなも-ひろがる-」
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作品「かわらないけしき」
当たり前に感じる一瞬一瞬の美しい現象を眺め、日々を見つめ直すために、私は日常の痕跡として、金属を溶解し、注ぎ込む「鋳金」技法に刻みました。「鋳金」の金属を溶解し、流し込むという行為には、自身の作品に対し、想いや祈りを吹き込む意味を持っています。波紋、波の揺れる模様を「みなも」とし、その形態を金属の力で保持し、輝く姿を留めることが出来ると考え、「みなも」に「かわらない」ことの尊さの想いを込め、私は制作しています。私の作品に触れ、何気なく当たり前に思う日常を、少しでも想ってもらえたら幸いです。
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作業風景
オーナーからのご紹介
水の一瞬の動きを金属で表現する濱口さんの作品が、さらに進化しました。
金沢美大修了展では、「碑」を表現。
私達の人生にはいろいろな節目があり、記録に残したい事も多い。時間も水と同じように流れていく。流れる水で表す、「碑」「みなも」とは・・・・
多くの方に見ていただければとおもいます。お待ちしております。
ArtShop月映 オーナー 宮永満祐美