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Artist Story 作家が語る作品づくり

遠藤 加央里 Kaori Endo

私が陶芸を学ぶきっかけとなったのは、2017年に府中市美術館で開催された「フィンランド・デザイン展」で、北欧陶芸作家であるビルガー・カイピアイネンとルート・ブリュックの作品に出会ったことでした。私はもともとグラフィックデザインなどの平面作品に関心があったのですが、彼らの作品との出会いによって釉薬や土の面白さに魅了され、陶磁コースに進学しました。釉薬による鮮やかな色彩表現と豊かな質感、そしてどことなく非現実的な造形表現、そして何にも縛られることのない彼らの自由な感性からは、今でもエネルギーをもらうだけでなく、一種の羨ましさすら感じてしまいます。
この出会い以来、陶芸における絵画的な表現は私自身の中で大きな軸として存在し続け、3年前からはやきものの色彩に着目した制作を行なっています。離れてみると一枚のグラフィックのように、近づいてみるとやきもの特有の質感や造形が浮かび上がる、そんな二面性のある作品を生み出したいと考えています。

テストピースの一部

制作中のパーツの一部

<制作工程> あらかじめ作成した素焼きのパーツから数個選び取り、それらをパズルのように構成していくという方法で造形しています。パーツづくりの工程において要となるのはどれだけ多様なパーツを用意できるかという点にあり、これはのちの工程でフレキシブルに造形を考えていくためにはパーツのバリエーションが必要だからです。パーツは主に電動の機械で伸ばされた一枚の板状の粘土から切り出しており、それらを重ねたり、彫り込んだりすることで様々なテクスチャーのものを造形しています。素焼きが済んだら、その中からパー ツを選んでいきます。形態の組み合わせが決まったらテストピースを元に、様々な釉薬や顔料を組み合わせ、色彩構成のように彩色していきます。 私の作品は陶磁器における色彩への興味や関心から着想を得ており、立体としてのやきものらしさを持ちながら、一枚のグラフィックのように鮮やかな色面構成をすることで、視覚的にも触覚的にも愉しめる表現を目指して制作を行なっています。そのため、実際に手を動かしながら形と色の構成を決定していくこの行為は私の制作の根幹だと捉えており、最も時間がかかるプロセスです。

<色と形について>
幼少期から色のことを考えるのが好きで、こだわりがあったように思います。普段の生活でも気に入った色のもの(紙袋やチラシ、ポスター、ボタン、シール、飴玉の入っていたビニールなど…)を持ち帰り、暇つぶしに組み合わせてみたりして遊んだりしています。コラージュするように形と色を組み合わせる私の制作スタイルもこの“遊び”の延長にあります。
やきものにおける色彩表現の可能性は無限大です。多彩な表現を模索するため、釉薬や顔料の発色実験にも日々取り組んでいますが、思ってもいなかったような色やユニークな質感を得られた時はいつも強く心を揺さぶられます。これからもたくさんの実験を重ね、新たな色を見つけていきたいと思っています。

作品細部

また、私の作品はどれも抽象的な形態で構成されています。これには一つの目的があり、形をあえて具象化しないことで、鑑賞者それぞれの心の中にある感情や記憶と結びつき、それらを想起させるようなものにしたいと考えています。質感と相まって生まれる複雑で不思議な釉薬の表情は、私たちの記憶や感情などを鮮明に呼び起こし、心理的な効果をダイレクトに及ぼしてくるように感じています。様々な色や形で組み立てられた私の作品が、作品を見てくださった方々に一種の鑑賞体験をもたらす装置となればこれ以上嬉しいことはありません。

オーナーからのご紹介

遠藤加央里は、北欧の陶芸家の作品に刺激を受け、陶芸による絵画的な表現を軸として制作しています。それは何か具体的なものを描くというより、抽象的なかたちにこだわって作品を制作しています。作品を見た人がその色や形態から、自らの思い出や感情を思い出すことを意識しているそうです。

同じ作品をみても、思い出すことは人さまざまです。人は、作品を見た時何が浮かんでくるでしょうか。それは、忘れていた楽しかったことや、ほんのり嬉しかったことかもしれません。なぜなら、私は遠藤加央里の作品に何か包み込むようなやさしさを感じるからです。

遠藤加央里は、2020年4月にArt Shop 月映の新人アーティスト展に参加、2年後になる今回の企画に発展し、今後も大いに期待される作家です。


宮永 満祐美


ArtShop月映 オーナー 宮永満祐美

遠藤 加央里の作品&プロフィール
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