Artist Story 作家が語る作品づくり
漆作家
鵜飼 康平 Kohei Ukai
木と漆を用いた造形作品を制作しています。漆という素材に実際に触れたのは、金沢美術工芸大学 工芸科に入学してからでした。素地から下地、塗りに至るまで、予想以上に長い工程だと感じました。しかし、素材に触れながら、少しずつ工程を積み重ねて育てていくように感じ、心地よさを覚えました。この感覚を、作品としてかたちにしたいと思い、現在まで制作活動を行ってきました。
制作風景
制作途中 漆の塗り重ね
制作方法としては、木を胎として用いて形を削りだし、そこに漆を塗り重ねて仕上げています。漆を用いて造形作品を作る際に、素地となる胎が必要になります。木や布、和紙、金属など様々な素材が漆の胎として用いられます。その中で木を選択した理由に、まず第一に木と漆の相性が良いという点があります。それは、漆が木の樹液であることを考えれば当然のことかもしれません。自分の残した痕跡がそのまま形態になる点も、木を用いる理由です。無理がなく、自然なことが連続して、結果として作品になったら良いなと考えています。
漆は木の樹液で、木の傷口を塞いで守る役割を果たします。その性質を利用して、古くから天然の接着剤や塗料として、日本では主に箱やお椀などの器物に用いられてきました。
作品制作においても、これらの素材の関係性に着目しています。それ自体では決まった形をもたない漆が、木と合わさることで形を獲得し、また、木は漆に包まれ、守られます。漆を塗る度に表情を変え、木が包み込まれていく様子に心地よさを覚えます。また、漆を塗る・研ぐという単純な行為の繰り返しの中で、自分でも意図しない形態が現れます。偶然性を拾いながら、意識と無意識のあいだを行き来するような感覚があります。私はこのことに人間らしさを感じています。
漆という伝統的な素材を、現代を生きる人のひとりとして捉えなおし、作品として提示していきたいと考えています。また、直感的・体感的に人の心を動かすような作品を目指して制作しています。
制作過程 研ぎ
オーナーからのご紹介
「木の主張を感じ、それを受け入れながら形をつくる」
鵜飼の制作過程は、完成形を決めずに木の目にそって彫り裂いて形を作る。木の主張とつくり手の意図とのバランスが合った瞬間を感じる時があり、その時は自然な流れが動いて見える、とのこと。また漆が木を飲み込んでいく過程も見せたい、とすべてを塗らない。
制作過程から、自然界の代表である木と古来から私たちの生活に使われてきた漆への敬意を、感じる。
鵜飼の作品に、斬新なエネルギーとどこかほっとする郷愁を同時に受け取るのは私だけではないかもしれない。
ArtShop月映 オーナー 宮永満祐美