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Artist Story 作家が語る作品づくり

遠藤 茜 Akane Endo

私が漆について学び始めたのは、美大に入学したことがきっかけでした。中学生の頃から油絵を描いたりして、それまで工芸に関することは特別やっていませんでした。私が大学で漆を選択した一番の大きな理由は、「分からなさ」です。硬化するために湿度が必要なこと、下地を幾度となく塗り重ねていくこと、ただ塗っただけではツヤツヤに光らなくて、全然美しくならないこと。先生や他の作家の作品を見て、どうやったらこの漆で、あんなに美しいものが作れるのか、漆を選択すれば、分からないことが分かるようになるのではと思い選択しました。
 漆を選択した当初と比べれば、現在は素材に関する知識や技術も上がってはいるはずなのですが、それでもまだ漆のことを「分かって」はいません。同じ環境で同じ素材を用いて制作していても、同じように硬化してくれるわけではなく、そうなるであろうと予測することしかできません。漆には当たり前が無いのです(漆だけでなく、他のことも全て当たり前ではないのですが)。漆はよく生き物に例えられますが、私もその掴み所のなさが、漆の魅力の一つであると思います。

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制作プロセスの重要性
 私が漆で作品を制作する際に重視するのは、その作品がどのようにして制作されるかです。例えば、私は作品の支持体にクッションや座布団のような、縫製した布に綿をつめたものを使用することがあります。この支持体を作るために布を切ったり縫ったりといった作業や、その出来上がった支持体に漆の下地などをたんたんと塗り重ねていく、これもまた漆をやっている人ならば誰にでも出来そうなプロセスをあえて踏んでいます。それは、私が造形に対してネガティブだというわけではなく、伝統・素材・技法など様々な枠組みを利用して、それらをコラージュのように組み合わせることで、まず工芸が陥りやすい見た目だけの美しさというものから抜け出し、さらに工芸の隠された面白さをあらわにすることができると考えているためです。

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・守られている感覚
 油絵を描いていた時と、漆を使って作品を制作している今、どちらも同じ作品制作の時間ですが、漆を使って作品を作っている時は、「守られている」と感じることが多くあります。例えば私たち制作者のために素材を確保してもらえていることや、伝統工芸という守られるべき存在に同じ工芸という名前がついていること、また、作品に漆をぬっていると作品がどんどん硬く強くなっていくその過程、その支持体が何であれ、9000年近く漆が姿を保持することができるという事実…。私は漆で作品を作ることで、漆に自分を守ってもらえていると思えるのです。しかし、守られるばかりではなく、私が守らなくてはならないものも少しずつ見えてきました。
 その守るべきものの一つとして、今環境問題に興味を持っています。私は、漆の作品は早く作れないし、高いし、売れない、欠点の多い素材だと思っていました。しかし、漆にとってそれはごく自然なことであることに気づきました。手作業による工芸のものづくりは、現代社会にまるで逆行しているかのように見えることがありますが、本来のものづくりのスピード感を持って生産されているエシカルな分野だと考えます。
だからこそ工芸という場所から、作品を作り続けたいと考えています。

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オーナーからのご紹介

遠藤茜は、漆の作品を通して私たちにいろいろなことをメッセージしてくれます。私が初めて彼女の作品を見た時、「くすっ」と笑えて、とても気分が晴れやかになりました。また、今回の展示のための画像と「これから何を守っていけるか、を考える展示にしたい」という言葉を見で、胸のどこかがゆらっとしました。彼女の作品から、いつも何かの感情が引き出される感じがします。
心理学で人生の発達段階という事を学んだ時、最初は生存欲求の段階から、三番目に何かまたは誰かのサポートをする段階となりその次は自己の人生の意味を実感する段階といった内容だったと思います。「これからは何を守っていけるのかを考える・・」という言葉を聞いて、そんな発達段階を思い出したりしました。それは、「作家が成長してますよ」ということを言いたいという感じではありません。
何かを守ろうとすると喜びも大きいですが、困難や苦悩もあります。そこに自ら入っていき、作品を通して問いかけていこうとする若い作家の思いに感情が動いたのかもしれません。
まるでクッションのような漆の作品。そこには、作家の思いや問いかけが隠れています。どうぞ、それを感じていただければと思います。



ArtShop月映 オーナー 宮永満祐美

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